成層圏周極渦の変動と物質輸送



冬季成層圏の大気循環は,極域をとりまく低気圧性の「周極渦」によって特徴 づけられる.周極渦は,平均的には,中緯度成層圏界面付近に80〜100m/ s程度の極大値を持つほぼ回転軸対称なジェット構造をしているが,盛んに時 間変動をしている.

このような大気循環の変動は,オゾンや水蒸気といった微量大気成分の濃度分 布とも密接に関連している.例えば,下部成層圏のオゾンは,その化学的寿命 が数十日以上であるので,時間変動する大気循環によって輸送され混合されて いる.近年注目されている南極域の「オゾンホール」の動態も,このような地 球規模での輸送混合過程と深く関わっている.

成層圏循環の変動とそれに伴う物質輸送は,様々な階層の数値モデルを用いて 研究されている.我々は,理想化した回転球面上の2次元非発散流体の数値モ デルを開発し,周極渦の力学過程と物質輸送混合過程に関する動画解析を行なっ てきた( Yoden and Ishioka, 1993; Ishioka and Yoden, 1994; Ishioka and Yoden, 1995).

冬季南半球成層圏の周極渦を念頭に置いた実験結果の一例をここに示す.

周極渦の時間変動(MPEG Movie)
流体力学的に不安定な周極渦を維持しようとする傾向と,不安定を解消 しようと発達する擾乱の競合によって,数週間を時間スケールとする循 環場の変動を作り出している.動画は絶対渦度場の時間発展である.南 緯50度付近の渦度勾配が大きいところがジェットに対応するが,ジェッ トは蛇行しながら東向きに流れている.
 
トレーサーの時間変動(MPEG Movie)
上に示した変動をする流れ場で,ある初期時刻に仮想的な自転軸対称分 布のトレーサーを置いて移流させる.時間発展をみると,中緯度域にお いては引伸しと折畳みによってすみやかに混合が起こり,物質の分布 (濃度)が一様化されていることがわかる.一方,ジェット付近では物 質濃度の急勾配が残ったままで,周極渦の縁に水平輸送の障壁ができて いる.

これらの動画のVHSビデオに興味のある方は,yoden@kugi.kyoto-u.ac.jp まで ご連絡下さい.


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YODEN Shigeo <yoden@kugi.kyoto-u.ac.jp>
Created: April 9, 1996