カルマン渦実験装置

 カルマン渦は一様な流れの中に物体 (例えば円柱) をおいたときに、下流側にで きる渦列のことです。ものものしい実験装置を使わなくても、カルマン渦は日常 生活のなかで簡単に楽しむことができます。
 例えば、これは数年前のある学生のレポートに記されていたことなのですが、 ラーメンを食べた後、スープに直角に割りばしを一本立て、そのまま手前に引 けばきれいな渦列が見られます。レポートによると、胡椒をふりかけるとより 美しく可視化されるそうです。なかなかどうしてその通りです。
 また、冬の木枯らしもカルマン渦の仕業です。この場合は、木の枝が円柱の役割 をしており、これに風があたると空気中にカルマン渦ができて、音となって聞こえ てくるのです。
 このような美しいカルマン渦も、時には惨事をもたらすことがあります。 ワシントン州タコマ市には美しい ナローズ橋というつり橋がかかっていますが、 これは、1940年の初代の橋の崩壊の後、1951年に新たに建設されたものです。 この1940年の崩壊は、風の渦との共振によるものだと考えられています。 崩壊時の様子がフィルムに納められていますので、ご覧になった方も多いと思 います。この場合は、橋が円柱の役割をして、カルマン渦ができたようです。

さて、この授業では、カルマン渦の特性を詳しく調べるために、精密な装置を 作成して実験を行ないました。

これは、実験装置全体です。 水槽に張った水の中に、円柱を垂直に立て、これをステッピングモータにより 等速で動かします (ラーメンスープのカルマン渦と同じ要領ですね)。円柱と 共にビデオカメラを動かし、現れたカルマン渦や双子渦を撮影します。
ステッピングモータの回転速度はパソコンで制御され、円柱のスピードを 1mm/s の精度でコントロールできます。
問題は渦の可視化です。無色透明な渦ですから、目に見える物質で見えるよう にしなければなりません。ラーメンスープのカルマン渦は胡椒でうまく可視化 できましたが、この実験ではコンデンスミルクを用いることにしました (可視 化情報学会ではコンデンスミルク法と呼ばれています)。温度は19度に保ちました。 この温度調節もポイントの一つで、2度低くてもコンデンスミルクの溶け具合 いに有意な差が見られました。
コンデンスミルクは比重 が大きく、下に沈んでしまいますので、比重の小さな可視化物質も探しました。 試みたのは、ブライト、クリープ、ニドの3種類のクリーミングパウダーです。 ニド、クリープ、ブライトの順で可視化に適していることがわかりました。 評価基準は、拡散が大きすぎないこと、粒子が細かいことです。 ミルクを塗るときにドライヤーをかけながら多層構造にしておくと、長持ちす ることもわかりました。
こうして渦の可視化はできるようになりました。次は記録(撮影)です。 デジタル時代の授業らしく、デジタルビデオで撮影し、動くカルマン渦を記録 することにしました。ただ、美しくとるためには、光をうまく使わなくてはな りません。この図は、授業で用いた光源です。水槽の左右から同じ高さにス リット状を光をあてます。スリット状の平行光線を作るために、光ファイバー を用い、レンズで調節できるようにしました。
次の問題は水でした。総人D号館の水は年々赤くなる一方です (どうにかしてくだ さい)。鉄さびのせいで、折角の並行光線が散乱され、赤くボンヤリした汚い 背景になってしまうのです。お茶パック2枚重ね (これでも鉄さびが結構こしとら れるところが恐ろしい)、洗濯ネット (水垢除去のため) など、生活に 密着したフィルターも使ってみましたが限界がありました。水垢の原因であっ たホースを新調し、鉄錆を除去するフィルターも購入しました。
上記のフィルターがくるまで活躍したのが、このイオン交換装置です。 総人の博士課程の学生さんが、どこぞに捨ててあった樹脂を拾ってきて 自分の実験のために作成した装置だそうですが、もう使わないからということで譲って頂きました。赤い水がこれを通す と透明な水になるのでみんなで大変感動しました。細菌が (装置のなかで) 生 きているので絶対飲んではいけないとの指示を頂きました。
円柱として、真鍮とアルミの棒を使いました。透明なアクリル板で止めるので すが、なるべくこの部分はビデオに写らないようにしなければなりません。 また、棒を水につけた後はあまり動かしたくありません (ミルクが拡散してし まうから)。結局、アクリル板で桟橋を作り、その先に棒をぶら下げることに しました。棒をしっかり固定するためにネジ切りをしましたが、我々の技術レ ベルでは、水面に垂直にするのは一苦労でした。
取り付け作業も二人がかりで行ないました。
カルマン渦が一度できてしまうと、ミルクが水中に残り、濁ってきます。 そのため頻繁に水を変える必要があります。強力なポンプ(カタログによれば 古典的な装置なので絶対に壊れないとか?)を使いました。
ビデオ撮影して得た画像は、パソコンに取り込み、ムービーにしました。 パソコンが悪いのか、ケーブルが悪いのか、ビデオのモータが安定していない のか、なかなか自動モードでは等時間間隔に取り込めないので、速さ2cm/sの 時のカルマン渦は、手動で画像を取り込みました。 自動でなんどもやり直すより、手動の方が確実で、結局のところ速かったようです。
撮影は、カーテンやドアをしめ、余分な光を入れないようにして行ないます。 そういう意味では、この張り紙も実験装置の重要な一部といえるかも知れません。


1997年度地球科学実験(地球流体)
メンバー:徳永俊太郎、魚崎直彦、恒吉敦、佐々木豪、中西浩平、福原隆彰
指導:佐藤薫、酒井敏
文責:佐藤薫